バイオヒート
【BGM-ON】
ヴィータビルに向かう朝の事だった。イアンの運転するレオネリの車が横転、炎上した。
「ヴァンパイア!お怪我は!?」後部座席に乗っていたクレアを救い出すイアン。
「かすり傷だよ。それより、どうした?」落ち着いた様子で、しかし険しい表情で周囲を窺っている。
今日の街はどうもおかしい。朝の通勤ラッシュがあってもいいこの時間帯なのに、道は妙に空いている。
「突然対向車が車線を越えて来たので、避けようとしたのですが…申し訳ありません」
対向車線を走っていた白いバンは、ガードレールに追突して動かなくなっていた。
運転手の様子は分からない。
「…死んでるのか?」クレアはゆっくり、バンに近づく。
すると、運転席からよろよろと男が姿を現した。
さすがに朝から死体を拝むのは勘弁だと思っていたクレアは、軽く息をついた。
「どこに目付けて運転してるんだよ。うちの車、スクラップじゃないか。」きつく睨んでそう言い放った。
しかし、運転手は答えず、ただ小さく呻きながらクレアに歩み寄る。
その様子に違和感を感じながらも、クレアは腕を組んで立ち塞がったまま、微動だにしない。
ガシッと、男がクレアの肩を掴んだ。
「!? 何を…!」
男の目を睨み込んだクレアは気付いた。それがもはや生者のそれではない事を。
白濁し、焦点の定まらない瞳の奥で、どす黒く揺らめく闇色の光。
腐っている。
ガンッ…音を立てて、男が大きく仰け反った。イアンの放った弾丸が、男の胸を貫いたのだ。
男の腕を振り解き、クレアが後じさった。
「こいつは一体…!?」
クレアを後ろに庇いながら、イアンはまだ男に銃を向けている。
「薬か何かの症状か?それ」
仰向けに倒れた男を見下ろしながらクレアが呟いた。
心臓を撃ち抜かれたはずの男は、再び起き上がろうとしている。
その動きはぎこちなく、筋肉の正しい働きではないように見えた。
「麻薬常習者が一時的に痛みを感じないという事ならありますが…これは異常です。
人間である以上、心臓をやられれば最期の筈ですよ。」
「人間じゃないって事?」
そう考えるのが一番的確だと思われた。
現に男の胸からは、血の一滴すら流されていないのだから。
男を見つめていたクレアが、目の端で何かの動きを捉えた。
視線を上げ、自分たちの立っている車道に面した歩道を見ると、そこにはこちらを見つめる中年の男。
そのまま視線を右にずらすと、通り沿いのブティックの中から同じくこちらを見つめる店員らしき女。
クレアはそのまま、自分の左半周を見渡した。
「…イアン」
低く、呼び掛けられるとイアンはクレアの見つめる先を見て驚愕する。
車道に立つ自分たちを、大きく取り囲むような形で、街の人間が集まってきていた。
それは野次馬や、事故の手助けといったものではなく
まるで吸い寄せられたかのように、自分たちに歩み寄ってくる。
ウゥゥ、アァァと、みな小さく苦しそうな呻きをあげ、不自然な体の動きをしている。
「この連中は…!?」
イアンが銃を構えつつ辺りを見回す。
「その男と同じ目をしているよ。全員ね」
その数は目視できる限り30人といったところか。
どんよりと、重苦しい雰囲気で、ただ前進を続ける。
「こいつら全員を撃ち殺すのは不可能ですよヴァンパイア」
退路を確認しつつイアンが言った。
「分かってるよ…走れ!」
取り囲む連中に背を向け、2〜3人の者達の間を抜けて、車道を走る。
逃げるクレア達を追いかけるような素振りは見せつつも、連中は走って追って来る事はなく
ただこちらを恨めしそうに見つめて前進を続けるだけだった。
「あいつら、なんだと思う!?」
長く続く車道を駆け、軽く息を切らしながらクレアが言った。
すり抜ける瞬間、大きく唸った連中の気味の悪い声が耳から離れない。
「分かりません。ただ…街で何か起こったとしか…」
走りながら後ろを振り返る。
30人あまりの人だかりは、もう粒ほどの大きさにしか見えない。
クレアは自宅を出てイアンの運転する車に乗った時を思い返していた。
レオネリの屋敷は静かではあったものの、給仕の人間やメイドなどはいつも通り仕事をしていた。
しかし車に乗って街を走っている間
「人間を見ていないな…」
小さく呟いた。
屋敷は街中から離れたサウスエリアの郊外に建てられている。
何かあったとすれば街の中心部、ミッドエリアだろうか。
クレアが、ふいに足を止めた。つられてイアンも立ち止まり、クレアを振り返った。
「イアン、ジョバンニ達と連絡が取れるか?」
「はい、いまヴィータビルに連絡を…」
イアンが懐から携帯電話を取り出し、画面を開いて険しい顔をする。
「…すみません、故障のようです」
「使えない?じゃあ僕のは…」
同じようにクレアがズボンのポケットから携帯を取り出すが、こちらも画面に何も映されない。
事故の時に壊れたのだろうか、あるいは…。
「少々時間がかかりますが、徒歩でビルへ向かいますか?
車が拾えればいいのですが…」
「この様子じゃ車なんて見つかりそうにないな。歩こう」
ジュド南部、サウスエリアを横断するカブキロードは廃墟と化していた。
路面電車はその働きを止め、事故車によって道は塞がれ、アパルトマンの窓は割り尽くされている。
それらは昨日まで、街として正常な形を持った物たちだったハズである。
「誰もいないものかしら…」
既に陽は落ち、悪夢のような日々の、最初の夜が始まろうとしている。
カブキロードの大通りから少し奥まった路地の先に、小さなバーがあった。
しかしそこは、非合法に外界から持ち込まれた武器や薬物を、密かに取引する場所でもある。
その2階建ての小さなバーの屋上に、看板の裏に隠れるようにしてフィアがいた。
傍らには7.62口径のスナイパーライフルがスタンドで立てられている。
キャップを上げるとアイレリーフの赤いレンズが、薄闇の中で揺らめいた。
路地の隅々を見渡すと、黒く蠢く影を見つけた。その動きを監視する。
ゆらり、ゆらりと店に近づく影を5秒程度凝視し、躊躇い無く引き金を引いた。
小さく風を切る音だけを立てて、放たれた弾丸は目標の額に着弾した。
スコープの中に映し出された影の主は、流血する事なく
代わりに赤黒く練り固まった飛沫を上げて倒れた。それが彼らの血だ。
フィアは一度スコープから目を離し、きつく目蓋を閉じた。
ガシャン!!
黙祷の済まぬうちに、向かいの民家の路地からけたたましい音が鳴り響く。
ダンッ、ダンッ
数度、重く繰り返されたのは銃声だった。
「………」
フィアは息を潜めてスコープを再び覗き込んだ。
路地の奥から暗い影が、店を目指して歩いてくる。
引き金に指を掛けたまま、凝視する。
ひたっ と、民家の壁に置かれた白い手が、月明かりに浮かんだ。
引き金を引く。
カァンッ! と高い音を上げて、地面に転がった空き缶が跳ね上がった。
影がバサッと側転して屈んだ。
「待て!!撃つな!人間だ!」
影が物陰に隠れながら叫んだ。
フィアがゆっくり、スコープから顔を上げる。
「出て来なさい!」
凛と通った声で、フィアが返す。
影の主が立ち上がると、月明かりに照らされて金色の髪が揺れた。
すらりとした若い男「…ダイ?」
フィアがそう呼びかけた。
「びっくりしたよフィア。こんな所にいたのか」
ダイと呼ばれた青年、ダイスケ・アウローラはフィアを見上げた。
「えぇ、ここで足止めよ。
入ってらっしゃい、正面の入り口は閉ざしてあるから裏へ回ってちょうだい」
ダイスケは軽く手を上げて合図すると、店の裏手に回った。
人一人がやっと通れるくらいの通路に面して、古びてはいるが頑丈そうなドアがあった。
コン、コン
一応ノックは忘れない。
ドアを開けると、そこは三畳程度の狭い部屋になっていた。
天上からぶら下がった小さなランプが部屋の中を、うっすらと照らし出す。
部屋の中央にはシーツだけが敷かれた簡素なベッドが
奥の壁際には木造の机の上に古めかしいタイプライターが、カタカタと音を立てている。
机に向かう栗色の髪をした青年が、一瞬こちらを見やって、再び手元に視線を戻した。
部屋の隅に置かれた荷箱の上に細身の老人が腰を掛け、固く目蓋を閉じている。
その老人、ダイスケが将軍と呼ぶ男は、まるで瞑想しているように動かなかった。
その様子に軽く息をつき、ダイスケは再びベッドに視線を落とす。
そこに横たわる人物が、まっすぐにダイスケを見つめている。
睨んでいる、に近いかもしれない。
しかし、嘲笑うように笑って口を開いた。
「お前にこんな所で鉢合わせるとはね、ダイスケ」
「ホントだな。元気そうで何よりだ、クレア」
ダイスケも不敵に笑ってクレアに返す。
そうこうしていると、ドアの外から話し声が近づいてくる。
ダイスケがドアから離れると、ノック無しに勢い良く開かれた。
「あたしのカメラ、どこに落としたんだよケン!ちゃんと探せよな!」
「うるせぇな、それどころじゃねぇだろうが!」
言い争いながら入ってきたのは
おさげの少女モニカと、彼女を小脇に抱えた男、ケン・エジムンドだ。
「お前らも一緒だったのか」
入ってきた二人に声を掛けたのはダイスケだ。
その声に、二人が顔を上げる。
「ダイスケじゃん!特務課だったらこの非常時をなんとかしろよ!」
「お前も来てたのか。というか、ここ随分人がいるなァ」
モニカとエジムンドが口々に好きな事をいう。ダイスケは「あーぁ」と軽く額を押さえる。
コツコツと、静かな靴音を立ててフィアが階段を降りてきた。
「…七人か。書いとけよ、イアン」
「はい」
ベッドの上から仰け反って、クレアが机に向かうイアンに声を掛けた。
イアンは小さく頷くと、そのままタイプライターで何かを書き加えていった。
「ダイスケ」
「ん?」
クレアに呼ばれてダイスケが向き直ると、ベッドの上にクレアが座り込んだ。
「生き残れるかい?このサバイバルゲームをさ」
[Next]
Music byFANTASY MUSIC +H/MIX GALLERY+より[確執]
【あとがき】
バイオハザードのパロディのような感じです。
「ラクーンシティみたいな事にジュドがなったら」と、そんな感じで。
最後は無理くり7人押し込んだ感が否めません。ホントにギューギュー!
坊ちゃんに「狭いんだよ」って怒られそう。あぁぅ。
シリーズのように…なってく予定です!
って当たり前か、ここで終わったら「ナニソレ!」ですもんね!
パロディ。
しかもバイオのパロディなので
ヒートの展開とは全く関係なく行くので
いきなり誰か食われたり、とかもアリだと思います(滝汗。
クレアはジョバンニ達が心配でたまらないんだろうな
こうゆう状況になればきっと。
レオネリトリオの中でイアンは、一番クレアとの距離感の難しい人かと思います。
ミシェルやジョバンニは完全に大人なので「兄貴」っぽいですが
イアンは歳も近く(ダイスケと同じだし)
キャラはクールだし、一見シンプルな主従関係はできてるんですが
ジョバンニのように「甘える」事はできないし
ミシェルならクレアの刺々しい言動もやんわりかわしそうだし
でもイアンは…? みたいな。
なんのかんの言ってもクレア第一なんでしょうけどね。
そこら辺とか、掘り下げてみたいなぁと。
しかし将軍は荷箱の上だよ…。
荷物と一緒にしちゃったよ…ごめんね(泣
フィアたんスナイプ。スナイパーと言えばフィアたん。
戦闘能力とかで言ったら、この中では将軍、ダイスケに次いで3番てとこでしょうか。
未知数だ…ミステリアスな美人は大好きですが。
心配なのがケンちゃんとモニカ。なんせ初書きです存在自体が。
ノリと雰囲気だけでもう…サバイバッてもらうしか(殴